飲食店の作業工程には、食品事故を引き起こす多くのハザード(危害)が存在していますが、それぞれの業種・業態によってその種類は様々です。
まずは、それぞれの工程ごとに、どのようなハザードが存在し、それによってどのような食品事故に繋がるのかを理解し、それに対応できるような管理手段(対策)が施されているかどうかを分析・検討してみましょう。
◎作業工程別・食品事故ハザード(危害)一覧
飲食店における原材料の「受入作業」には、以下のようなハザードが潜んでいます。受入段階におけるハザードの中には、原材料に最初から含まれているリスクも考慮します。
①食品に食中毒菌・ウイルスが付着している
②食品内部ですでに食中毒菌が増殖している
③虫・髪などの軟質異物が混入している
④金属・骨・石などの硬質異物が混入している
⑤意図しないアレルゲンが混入している
⑥基準値以上の農薬・薬品が残留している
⑦貝毒・カビ毒などの自然毒に汚染されている
⑧水が飲用に適さない状態になっている
⑨食品内部に寄生虫が生存している
飲食店における原材料の「保管工程(冷蔵・常温含む)」には、以下のようなハザードが潜んでいます。
①保管中に食品内部で食中毒菌が増殖する
②虫・髪などの軟質異物が付着・混入する
③保管場所に存在する硬質異物が混入する
④意図しないアレルゲンが付着・混入する
⑤保管中に食中毒ウイルスが付着する。
⑥カビの発生によりカビ毒などが発生する
⑦保管中に油脂成分の酸化が起きる
⑧食品内部の寄生中が死なずに生き残る
⑨食品内部でヒスタミンが生成される
飲食店における原材料の「開封・計量工程」には、以下のようなハザードが潜んでいます。
①開封時に食品に食中毒菌・ウイルスが付着する
②虫・髪の毛などの軟質異物が付着・混入する
③開封に用いる刃物などの硬質異物が混入する
④缶・ビニール片・紙片など資材の破片が混入する
⑤意図せぬアレルゲンが混入する。
⑥基準値以上の食品添加物が混入する。
⑦計量ミスにより食品の保存性が低下する。
飲食店における食品や食器・器具類の「洗浄工程」には、以下のようなハザードが潜んでいます。
①洗浄不足により食中毒菌・ウイルスが残存する
②洗浄不足により土・石・鱗などの異物が残存する
②タワシ・スポンジなどの軟質異物が付着・混入する
③ガラス片・スチールウールなどの硬質異物が混入する
④洗剤などの薬品が食品に混入、残存する
⑤意図せぬアレルゲンが混入する。
飲食店における食品の「加工工程」には、以下のようなハザードが潜んでいます。
※「加工」とは切る、皮や骨を取り除く、混ぜる、成形する、などの作業工程を総称しています。
①食品に食中毒菌・ウイルスが付着する(人間由来)
②食品に食中毒菌・ウイルスが付着する(器具由来)
③作業中に食品内部で食中毒菌が増殖する
④虫・髪などの軟質異物が混入する
⑤除去したつもりの骨・鱗などが残存する
⑥刃物片・ガラス片などの硬質異物が混入する
⑦意図しないアレルゲンが混入する
⑧食品内部の寄生中を除去できずに残存する
飲食店における食品の「加熱工程」には、以下のようなハザードが潜んでいます。焼く、揚げる、蒸す、などの通常の加熱に加えて、湯通し、バーナー処理、低温調理、レンジ調理なども加熱工程に含むものとします。
①食品中の食中毒菌・ウイルスが死滅せずに残存する
②加熱後に食品内部の食中毒菌が増殖する
③高温加熱による化学変化で食品成分が変敗する
④調理器具由来の硬質異物が混入する
⑤ラップ・紙片などの軟質異物が付着する
⑥意図しないアレルゲンが混入する
⑦食品内部の寄生中が死滅せず残存する
⑧ボイラー由来の清缶剤が食品に付着する
飲食店における食品の「冷却工程」には、以下のようなハザードが潜んでいます。加熱した後に荒熱を取る工程はもちろん、すべての下ごしらえを終えて冷蔵庫で保管をしている状態も冷却工程に含みます。
①食品内部の食中毒菌が増殖する
②食品内部の寄生虫が死滅せず残存する
③意図しないアレルゲンが混入する
④食中毒菌やウイルスに二次汚染される(人間由来)
⑤食中毒菌やウイルスに二次汚染される(保管場所由来)
飲食店における、加熱済み食品の「再加熱工程」には、以下のようなハザードが潜んでいます。再加熱の方法は、オーブンやレンジ、湯せん、バーナーなど、どのような方法でも食品に熱を加える工程であれば再加熱となります。
①食品内部の食中毒菌・ウイルスが死滅せずに残存する。
②耐熱性の食中毒芽胞菌が増殖を再開する
③意図しないアレルゲンが混入する
④高温加熱による化学変化で食品成分が変敗する
飲食店における料理の「盛付工程」には、以下のようなハザードが潜んでいます。テイクアウトなどで持ち帰り容器に盛り付ける場合も同様です。
①食中毒菌やウイルスに二次汚染される(人間由来)
②食中毒菌やウイルスに二次汚染される(食器・器具由来)
③作業中に食品内部で食中毒菌が増殖する
④意図しないアレルゲンが混入する
⑤虫・髪の毛などの軟質異物が混入する
⑥皿・ガラスの欠けなどの硬質異物が混入する
料理の「提供工程」には、以下のようなハザードが潜んでいます。
①主にノロウイルスに二次汚染される(人間由来)
②虫・髪の毛などの軟質異物が混入する
③皿・ガラスの欠けなどの硬質異物が混入する
④意図しないアレルゲンが混入する
⑤アレルゲンを含むものを誤って提供する
◎作業工程別・管理手段一覧
上記のハザードがもたらすリスクを除去、あるいは低減するために行う、一般的な対策をまとめています。
(✔)=記録ポイント
原材料の「受入工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①原材料の規格書の入手
②HACCP管理された原材料の入荷
③入荷時の製品温度の計測(✔)
④入荷時の商品状態の確認(✔)
④流通保管中の温度の確認
⑤冷凍処理された原材料の入荷
⑥水道水の残留塩素濃度の確認
⑦実績のある取引先からの入荷
原材料の「保管工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①冷蔵・冷凍庫の温度確認(✔)
②倉庫や冷蔵庫内の洗浄・清掃(✔)
③密封保管や施錠管理
④換気扇や空調による除湿
⑤保管場所の確保と整理整頓
⑥アレルゲン製品との区分保管
⑦生肉と魚、野菜などの区分保管
⑧ネズミやゴキブリなどの駆除(✔)
原材料の「開封・計量工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①パッケージ・外装の消毒
②ハサミ開封時の二度切りの禁止
③缶切り型→プルトップ型の缶詰へ移行
④要手洗い・手袋の着用と交換
⑤衛生的な開封場所の確保
⑥帽子、ヘアネットの着用
⑦開封器具(缶切り・ハサミ)の消毒
⑧開封後の速やかな利用
⑨開封後の速やかな冷蔵
⑩計量記録の実施と確認(✔)
原材料の「洗浄工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①洗浄機内部の清掃、温水の高温化
②スポンジや洗浄器具の使い分け
③2層シンク、3層シンクなどの利用
④長めのゴム手袋の着用と交換
⑤亀の子タワシ、スチールウールの使用禁止
⑥洗浄手順書の作成と実行
⑦流水かけ流し洗いによる希釈化
⑧次亜塩素酸Naの適切な利用
原材料の「加工工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①衛生的な器具の利用、使用前の殺菌(✔)
②要手洗い・手袋の着用と交換
③作業場の温度管理(✔)
④作業時間の短縮、ルール化
⑤目視確認、手触確認の実施
⑥使用後の器具の破損確認(✔)
⑦衛生的な作業場所とスペースの確保
⑧作業担当者の専任化
⑨計量記録の実施と確認(✔)
食品の「加熱工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①加熱後の中心温度(3点)の測定(✔)
②加熱前の製品保管温度の一定化(✔)
③加熱機器の設定温度確認(✔)
④総加熱時間の確認(✔)
⑤正常品のサンプル写真との比較
⑥使用後の器具の破損確認(✔)
⑦適切な清缶剤の利用
加熱済み食品の「冷却工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①冷却後の中心温度(3点)の測定(✔)
②冷蔵庫の温度確認(✔)
③冷氷などによる積極的な荒熱取り(✔)
④十分な冷凍時間の確保(✔)
⑤冷蔵庫内の洗浄・殺菌
⑥急速冷却器の使用(✔)
⑦適度な攪拌
加熱済み食品の「再加熱工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①速やかな提供と消費
②再加熱後の再冷却の禁止
③加熱後の中心温度(3点)の測定(✔)
④加熱機器の設定温度・時間の確認(✔)
食品の「盛付工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①要手洗い・手袋の着用と交換
②帽子・ヘアネット・マスクの着用
③衛生的な作業場所とスペースの確保
④盛付容器と食器の殺菌・消毒
⑤作業場内の温度管理
⑥作業時間の短縮、ルール化
⑦他の工程との同時作業の禁止
調理済み食品の「提供工程」に潜むハザードを制御するには、このような管理手段が有効です。
①要手洗い(特にトイレ利用後)
②提供前のダブルチェック
③アレルゲン情報の表示・掲示
④速やかな提供と消費
⑤従業員の健康管理(✔)